最近は(僕が動く体を手に入れられた時の験を担いで)KANA-BOONと赤い公園の全曲を突っ込んだプレイリストを毎朝かけて通所しているのだが、シャッフル一発目で赤い公園の「きっかけ」が流れた日があって、その時の体験がすごく良かった。

「きっかけ」は「冬に出すのと春に出すのでは意味が違ってくるので、春にリリースした」というエピソードがあるという話が強く印象に残っている曲なのだけれど、そのエピソードと朝の駅までの道のりで感じた感覚が共鳴して、叫びのような希望が胸から溢れ出て、ああ、まいささんの言っていたのはこういう事かもしれない、と思った。

冷たい冷房が効いた部屋から、玄関を開けて、一気にムワッと暑い空気に包まれる時の、あの肌の冷気が溶けていくような感覚。

傘の中からも感じられる太陽の熱が、周りの草木やアスファルトをキラキラ輝かせていて。己の肌がじりじりと蒸し焼かれていく僅かな悲鳴を噛み締めながら、いつもの風景を眺め歩いていたら、なんだか嬉し涙が出そうになって。

すべての事象が、「奇跡の連続」という名の絹糸で織られた布であるかのように美しく、とても生を実感した。

一昨年までは、まさか真夏の炎天下に景色を楽しみながら20分も外を歩けるようになるなんて、夢にも思っていなかった。つい先月くらいまでは3日も外に出ればぐずぐずに体調を崩していたのに、今月に入ってからは4日連続で外に出たら1日お腹を壊す程度で、不調が後に引かない感じが回復を思わせる。紫外線対策は必要だけど、暑さにも耐えられる体が少しずつ戻ってきているのが嬉しい。

「きっかけ」も、歌詞こそ希死念慮を思わせる内容だけれど、僕はこの曲を聴くと「生きねば」と強くパワーが湧いてくるし、音からは、自身の身を灼かれる苦痛と共に、救いへの祈りと成長への期待を感じる。あの曲は生を謳っている。生きたがっていると感じる。

音楽は、「音を楽しむ」と書く。歌詞というのはリスナーの想像力を後押しするための副次的な情報であって、本来は音を聴いて、作曲家たちの放つ「音という言語」を通して、己と対話を行う行為が「音楽を聴く」だと僕は考えている。作曲家を追う場合は作曲家との対話という側面もあるが、そうではない場合、音楽は物言わぬカウンセラーだ。時には苦痛を和らげ、時には問題提起をし、時には最強の味方として追い風のように背中を押してくれる。「きっかけ」は己のメンタルの状態によって、3役をバランスよくこなしてくれる。すごい。なんでそんなことができるんだ。かっこいい。

漫画やアニメなどにも言える事だと思うけれど、「言葉の先にある感情」というのは、感性が磨かれなければ、つぶさに受け取る事はできない。受け取り方を知らなければ、時間の経過と共にいずれは虚しさを感じてしまうし、その虚しささえ感じられなくなってしまえば、それは人間性の喪失と さして変わらないものだと思う。何事も意識する事からすべてが始まるので、皆で少しずつでも、ムリなく音を楽しめる畑を作っていけたら嬉しいなと思っている。